平成19年度税制改正大綱−減価償却制度の抜本的改正−
- 2006.12.18 Monday
- 12:15
今回から各論ということで、まずは「減価償却制度の抜本的改正」。
当該制度の創設は大正7年ですから、約40年ぶりの大改革となります。
先に述べたように、経済産業省が数年前から抜本的見直しを要望していました。ようやく日の目を見たということになります。
改正事項をご紹介する前に、
初心者のために、そもそも「減価償却制度」とは何かということを。
記帳指導に行きますと、大概はこの説明が必要になりますので。
100万円の乗用車を購入したとします。
で、この全額(「取得価額」と言います。)をその年の経費にできるかと言うと、残念ながらできません。
なぜなら、乗用車は数年間にわたって乗り続けるからです。
会計の考え方に「費用収益対応原則」というのがあります。
その年の収益(売上等)にはその年の費用(経費)を対応させて利益を計算させる、という考え方です。
(この際、発生主義と現金主義の考え方はひとまずおいときます。)
ですから、乗用車の購入費用は、その使用する数年間に分けて経費(「減価償却費」と言います。)に計上し、収益に対応させることになります。
じゃあ、2年間しか乗らない場合には、とか、10年間乗った場合には、ということになりますが、それでは大変なので、計算上の利用期間が定められています。これが「法定耐用年数」と呼ばれるものです。
では「減価償却費」はどのように計算されるのかと言いますと、
大別して2つの方法、「定額法」と「定率法」とがあります。
(他にも税法上は「生産高比例法」があります。)
それぞれの方法を述べる前に、もう1つ必要な概念があります。
「残存価額」がそれです。残存価額とは固定資産(建物や車、設備等のこと)の利用が終わって売却するときの価値ということになります。
もっとも、価値がゼロのものや、逆に20%程度のものがあるかもしれないので、これも10%と法定されています。
で、定額法では減価償却費は以下のように計算します。
減価償却費=(取得価額−残存価額)×定額法償却率
(定額法償却率=1/法定耐用年数)
先ほどの乗用車の例でいきますと、法定耐用年数を5年とした場合、
減価償却費=(1,000,000−1,000,000×0.1)×0.2
=180,000
となります。
次に、定率法の場合には
減価償却費=(取得価額−すでに経費に算入された減価償却費の累計額)
×定率法償却率
この式を見る限り、残存価額は影響していないように見えますが、
実は定率償却率を算定する上で考慮されています。
定率法償却率=1−耐用年数√
√の中身は、残存価額/取得価額 となっています。
これも実際に計算して見ましょう。
減価償却費(初年度)=(1,000,0000−0)×0.369
=369,000
減価償却費(2年目) =(1,000,000−369,000)×0.369
=232,839
この計算例でもわかるように、早く経費にしたいときは定率法の方がお得、ということになります。
なお、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によりますと、牛と馬(固定資産です!棚卸資産に該当する場合もあります)の残存価額は別表第十に規定する金額と10万円のいずれか少ない金額となっています。
牛は固定資産ですが生きています。
ある会計事務所では、決算時に牛が1頭行方不明になり大騒ぎになったことがありました。(笑えます!)
で今回の改正ですが、
1「償却可能限度額」(取得価額の95%)の廃止
現在の制度では固定資産を除却(売却、廃棄)しない限り95%までしか償却できませんが、95%まで償却が進んだ固定資産については、以後の5年間で残りの5%部分を均等に償却できることになりました。
他の主要国(アメリカやドイツ等)と同様に取得価額の全額を償却することができるようになりましたので、企業にとっては国際的イコールフッティングを実現でき、国際競争力が高まることが期待できます。
減価償却費を100%まで計上できるということは、その分、支払うべき法人税が少なくなるということですから、企業にとっては減税と同様の効果が発現することになります。
「企業にやさしい」安部政権の面目躍如といったところですね。
(もちろん、皮肉です! 企業への減税効果はもちろん家計にも及びますので少しは期待できますが。)
問題は、収益の縮小した中小企業にとってはあまり意味のない改正かもしれません。
というのは、決算時点において事実上赤字である中小企業の多くは、減価償却の実施率を100%から数10%に落として黒字の決算書を作成しているのが現状ですので、あと5%を償却できるとしても実際のところはできない、ということになるからです。
ま、景気が上向けば、有り難い制度になりますけどね。
2「250%定率法」の導入(「残存価額」の廃止)
今後、新規に取得する固定資産が対象ですが、法定耐用年数が経過した時点の「残存価額」が10%から0%へ撤廃されることになりました。
すなわち、法定耐用年数経過時に取得価額の100%まで償却できることになりました。
この方法は具体的に「250%定率法」により行われることになります。
ここで「250%定率法」とは、
定額法の償却率(100%法定耐用年数)を2.5倍(250%)にした定率法償却率により、すなわち定率法により減価償却費を計算し、
当該償却費が、法定耐用年数から経過年数を差し引いた期間内に、その時点の帳簿価額を定額法で全額償却すると仮定して計算した減価償却額を下回るときに、
償却方法を定率法から定額法に切り替えて、備忘価額(1円)まで償却する方法のことです。
なんだかよくわかりませんね。
具体例はないかと探したところ、ありました。
やはり抜本的見直しの言いだしっぺ、経済産業省の資料に。
事例
取得価額100万円(経産省資料では100億円ですが)、法定耐用年数10年
定率法を採用している場合
【現行】(単位:万円)
法定耐用年数10年での定率法償却率は0.206となります。
経過年数 期末帳簿価額 減価償却費
(うまく表示されません。左から上記の順番で並んでいます。で、色分けしました)
1 79.4 20.6(100×0.206)
2 63.0 16.4((100−20.6)×0.206)
3 50.1 13.0
4 39.7 10.3
5 31.6 8.2
6 25.1 6.5
7 19.9 5.2
8 15.8 4.1
9 12.5 3.3
10 10.0 2.6
11 7.9 2.1
12 6.3 1.6
13 5.0 1.3
14 5.0 0.0
15 5.0 0.0
16 0.0 5.0
合計 100.0
この事例ですと、固定資産を取得後13年経過して残存価額が5万円になりますが、この金額は除却して初めて経費にできることになります(事例では16年経過した時点)。
【改正後】(単位:万円)
法定耐用年数10年での定額法償却率は1/10=0.1(10%)ですので
この2.5倍(250%)は0.1×2.5=0.25(25%)となります。
そして、この「定額法償却率」を用いて「定率法」により償却していきます。
経過年数 期末帳簿価額 減価償却費
(うまく表示されません。左から上記の順番で並んでいます。で色分けしました。)
1 75.0 25.0(100×0.25)
2 56.3 18.8((100−25)×0.25)
3 42.2 14.1
4 31.6 10.5
5 23.7 7.9
6 17.8 5.9
7 13.3 4.4
8 8.9 4.4
9 4.4 4.4
10 0.0 4.4
上の事例で7年経過時の期末簿価は13.3万円、減価償却費は4.4万円ですが、
8年経過時点の、
定率法償却額は13.3×.25=3.3
他方、
定額法償却額は13.3/(10−7)=4.4
ですので、定額法に切替え、その後の償却額は毎期4.4万円となります。
なんとなくわかっていただけたかと思います。
これを手計算でやるとなると非常に厄介です。
ということは、これでまたソフト屋さんが儲かるということになります。
税制改正は、実は税理士泣かせの悪行(冗談です!)です。
特に私みたいな零細事務所にとってはソフトの更新費がバカになりません。
昨日、久々にとある事務所に行ったところ、機材が変わっていました。
導入費用がなんと1千数百万円、
私のところは、パソコンと相応のソフトを組み合わせてかなりの格安のシステム設計(1台15〜20万円程度)。
これもお仕着せのPC導入となると1台あたり5,60万円ボッタクラれます。
パソコンに詳しくない税理士事務所って、ソフト屋の餌食になっている見本みたいなものです。
e-Taxだどうのこうの言われて、さらに追加費用をボッタクラれるようですので。
ま、その際には250%定率法をうまく利用していただきたいものです。
他人事ながら、
税理士本人がソフト屋ごときにボッタクリの目に遭い、それでもって中小企業のIT化に貢献できるのか甚だ疑問ですが...
【参考】
『平成19年度税制改正大綱』(2006.12.14)
第一 経済・社会を安定的に支える税制に向けて
(税制改正主要項目の基本的考え方)
1 経済活性化・国際競争力の強化
(1)減価償却制度
わが国経済の持続的成長を実現するためには、設備投資を促進し、生産手段の新陳代謝を加速することにより、国際競争力の強化を図る必要がある。このような観点から、減価償却制度の抜本的見直しを行う。
具体的には、主要国の中ではわが国においてのみ設けられている償却可能限度額(95%)を撤廃する。また、新規取得資産について法定耐用年数内に取得価額全額を償却できるよう制度を見直し、残存価額(10%)を廃止するとともに、250%定率法を導入し、償却率についても国際的に遜色のない水準に設定する。同時に、フラットパネルディスプレイ製造設備等、3設備の法定耐用年数について見直しを行う。
なお、固定資産税の償却資産については、資産課税としての性格を踏まえ、現行の評価方法を維持する。
当該制度の創設は大正7年ですから、約40年ぶりの大改革となります。
先に述べたように、経済産業省が数年前から抜本的見直しを要望していました。ようやく日の目を見たということになります。
改正事項をご紹介する前に、
初心者のために、そもそも「減価償却制度」とは何かということを。
記帳指導に行きますと、大概はこの説明が必要になりますので。
100万円の乗用車を購入したとします。
で、この全額(「取得価額」と言います。)をその年の経費にできるかと言うと、残念ながらできません。
なぜなら、乗用車は数年間にわたって乗り続けるからです。
会計の考え方に「費用収益対応原則」というのがあります。
その年の収益(売上等)にはその年の費用(経費)を対応させて利益を計算させる、という考え方です。
(この際、発生主義と現金主義の考え方はひとまずおいときます。)
ですから、乗用車の購入費用は、その使用する数年間に分けて経費(「減価償却費」と言います。)に計上し、収益に対応させることになります。
じゃあ、2年間しか乗らない場合には、とか、10年間乗った場合には、ということになりますが、それでは大変なので、計算上の利用期間が定められています。これが「法定耐用年数」と呼ばれるものです。
では「減価償却費」はどのように計算されるのかと言いますと、
大別して2つの方法、「定額法」と「定率法」とがあります。
(他にも税法上は「生産高比例法」があります。)
それぞれの方法を述べる前に、もう1つ必要な概念があります。
「残存価額」がそれです。残存価額とは固定資産(建物や車、設備等のこと)の利用が終わって売却するときの価値ということになります。
もっとも、価値がゼロのものや、逆に20%程度のものがあるかもしれないので、これも10%と法定されています。
で、定額法では減価償却費は以下のように計算します。
減価償却費=(取得価額−残存価額)×定額法償却率
(定額法償却率=1/法定耐用年数)
先ほどの乗用車の例でいきますと、法定耐用年数を5年とした場合、
減価償却費=(1,000,000−1,000,000×0.1)×0.2
=180,000
となります。
次に、定率法の場合には
減価償却費=(取得価額−すでに経費に算入された減価償却費の累計額)
×定率法償却率
この式を見る限り、残存価額は影響していないように見えますが、
実は定率償却率を算定する上で考慮されています。
定率法償却率=1−耐用年数√
√の中身は、残存価額/取得価額 となっています。
これも実際に計算して見ましょう。
減価償却費(初年度)=(1,000,0000−0)×0.369
=369,000
減価償却費(2年目) =(1,000,000−369,000)×0.369
=232,839
この計算例でもわかるように、早く経費にしたいときは定率法の方がお得、ということになります。
なお、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によりますと、牛と馬(固定資産です!棚卸資産に該当する場合もあります)の残存価額は別表第十に規定する金額と10万円のいずれか少ない金額となっています。
牛は固定資産ですが生きています。
ある会計事務所では、決算時に牛が1頭行方不明になり大騒ぎになったことがありました。(笑えます!)
で今回の改正ですが、
1「償却可能限度額」(取得価額の95%)の廃止
現在の制度では固定資産を除却(売却、廃棄)しない限り95%までしか償却できませんが、95%まで償却が進んだ固定資産については、以後の5年間で残りの5%部分を均等に償却できることになりました。
他の主要国(アメリカやドイツ等)と同様に取得価額の全額を償却することができるようになりましたので、企業にとっては国際的イコールフッティングを実現でき、国際競争力が高まることが期待できます。
減価償却費を100%まで計上できるということは、その分、支払うべき法人税が少なくなるということですから、企業にとっては減税と同様の効果が発現することになります。
「企業にやさしい」安部政権の面目躍如といったところですね。
(もちろん、皮肉です! 企業への減税効果はもちろん家計にも及びますので少しは期待できますが。)
問題は、収益の縮小した中小企業にとってはあまり意味のない改正かもしれません。
というのは、決算時点において事実上赤字である中小企業の多くは、減価償却の実施率を100%から数10%に落として黒字の決算書を作成しているのが現状ですので、あと5%を償却できるとしても実際のところはできない、ということになるからです。
ま、景気が上向けば、有り難い制度になりますけどね。
2「250%定率法」の導入(「残存価額」の廃止)
今後、新規に取得する固定資産が対象ですが、法定耐用年数が経過した時点の「残存価額」が10%から0%へ撤廃されることになりました。
すなわち、法定耐用年数経過時に取得価額の100%まで償却できることになりました。
この方法は具体的に「250%定率法」により行われることになります。
ここで「250%定率法」とは、
定額法の償却率(100%法定耐用年数)を2.5倍(250%)にした定率法償却率により、すなわち定率法により減価償却費を計算し、
当該償却費が、法定耐用年数から経過年数を差し引いた期間内に、その時点の帳簿価額を定額法で全額償却すると仮定して計算した減価償却額を下回るときに、
償却方法を定率法から定額法に切り替えて、備忘価額(1円)まで償却する方法のことです。
なんだかよくわかりませんね。
具体例はないかと探したところ、ありました。
やはり抜本的見直しの言いだしっぺ、経済産業省の資料に。
事例
取得価額100万円(経産省資料では100億円ですが)、法定耐用年数10年
定率法を採用している場合
【現行】(単位:万円)
法定耐用年数10年での定率法償却率は0.206となります。
経過年数 期末帳簿価額 減価償却費
(うまく表示されません。左から上記の順番で並んでいます。で、色分けしました)
1 79.4 20.6(100×0.206)
2 63.0 16.4((100−20.6)×0.206)
3 50.1 13.0
4 39.7 10.3
5 31.6 8.2
6 25.1 6.5
7 19.9 5.2
8 15.8 4.1
9 12.5 3.3
10 10.0 2.6
11 7.9 2.1
12 6.3 1.6
13 5.0 1.3
14 5.0 0.0
15 5.0 0.0
16 0.0 5.0
合計 100.0
この事例ですと、固定資産を取得後13年経過して残存価額が5万円になりますが、この金額は除却して初めて経費にできることになります(事例では16年経過した時点)。
【改正後】(単位:万円)
法定耐用年数10年での定額法償却率は1/10=0.1(10%)ですので
この2.5倍(250%)は0.1×2.5=0.25(25%)となります。
そして、この「定額法償却率」を用いて「定率法」により償却していきます。
経過年数 期末帳簿価額 減価償却費
(うまく表示されません。左から上記の順番で並んでいます。で色分けしました。)
1 75.0 25.0(100×0.25)
2 56.3 18.8((100−25)×0.25)
3 42.2 14.1
4 31.6 10.5
5 23.7 7.9
6 17.8 5.9
7 13.3 4.4
8 8.9 4.4
9 4.4 4.4
10 0.0 4.4
上の事例で7年経過時の期末簿価は13.3万円、減価償却費は4.4万円ですが、
8年経過時点の、
定率法償却額は13.3×.25=3.3
他方、
定額法償却額は13.3/(10−7)=4.4
ですので、定額法に切替え、その後の償却額は毎期4.4万円となります。
なんとなくわかっていただけたかと思います。
これを手計算でやるとなると非常に厄介です。
ということは、これでまたソフト屋さんが儲かるということになります。
税制改正は、実は税理士泣かせの悪行(冗談です!)です。
特に私みたいな零細事務所にとってはソフトの更新費がバカになりません。
昨日、久々にとある事務所に行ったところ、機材が変わっていました。
導入費用がなんと1千数百万円、
私のところは、パソコンと相応のソフトを組み合わせてかなりの格安のシステム設計(1台15〜20万円程度)。
これもお仕着せのPC導入となると1台あたり5,60万円ボッタクラれます。
パソコンに詳しくない税理士事務所って、ソフト屋の餌食になっている見本みたいなものです。
e-Taxだどうのこうの言われて、さらに追加費用をボッタクラれるようですので。
ま、その際には250%定率法をうまく利用していただきたいものです。
他人事ながら、
税理士本人がソフト屋ごときにボッタクリの目に遭い、それでもって中小企業のIT化に貢献できるのか甚だ疑問ですが...
【参考】
『平成19年度税制改正大綱』(2006.12.14)
第一 経済・社会を安定的に支える税制に向けて
(税制改正主要項目の基本的考え方)
1 経済活性化・国際競争力の強化
(1)減価償却制度
わが国経済の持続的成長を実現するためには、設備投資を促進し、生産手段の新陳代謝を加速することにより、国際競争力の強化を図る必要がある。このような観点から、減価償却制度の抜本的見直しを行う。
具体的には、主要国の中ではわが国においてのみ設けられている償却可能限度額(95%)を撤廃する。また、新規取得資産について法定耐用年数内に取得価額全額を償却できるよう制度を見直し、残存価額(10%)を廃止するとともに、250%定率法を導入し、償却率についても国際的に遜色のない水準に設定する。同時に、フラットパネルディスプレイ製造設備等、3設備の法定耐用年数について見直しを行う。
なお、固定資産税の償却資産については、資産課税としての性格を踏まえ、現行の評価方法を維持する。